モ ナ ド の 夢

モ ナ ド の 夢

夏はやっぱり怪談、でもなんと松尾貴史さんが語ってくれます。

『有名人が遭遇した幽霊体験 ズバリ!怖〜い話』 (KKベストセラーズ 1992年刊)の中で松尾貴史さんが怪談を語っています。いささか戸惑いながら、ご紹介したいと思います。










「 幽霊が出没するお店の話」
僕がよく行く六本木の飲み屋さんがあるんですけど、そこにはあの御巣鷹山日航機が墜落した事故で亡くなったスチュワーデスさんも役者さんの彼氏としょっちゅう来てたんですよ。彼女が亡くなった後も彼氏の方はマネジャーさんと相変わらず飲みにやって来てたんですけど、時々マネジャーさんの方が「ちょっと用事を思い出したから」って、慌てて帰って行くんですね。それで、そこのおカミさんが、彼が次に来たときに「なぜ来た早々に帰っちゃうの?」って聞いたら、「死んだはずの彼女がすぐそこに座ってたから、俺、もうビックリしちゃって飛んで帰ったんだ」って言ったんだって。

そういうことは結構あって、おカミさんもカウンターの中で手を動かしながらふっと店の一番奥に掛けてあるガラス額の風神雷神図を見ると、自分の顔とその死んだ彼女が一緒に映っていたりするんだって。カウンターの中には、もちろんおカミさんだけしかいませんからね。そういう時は、彼女のために、彼女がいつも飲んでいたビールを注いで置いといてあげるらしいんだけど、彼氏の方も同じように、必ず1人分のコップを余分にもらって、ビールを注いで置いとくというのを習慣にしているらしいよ。
 
 なにせ、彼女のお通夜の日だって、おカミさんは不思議な体験をしてるんです。その日は、夕方お通夜にちょっと寄って、そのまま六本木のお店を開けようというつもりで家を出て、彼女のためにお線香をあげ、お通夜の席を後にしたのね。その時受付けの人に「タクシーを呼びましょうか」と声を掛けられたのを断って、広い道に出ようと歩き出したんですけど、めったに来たことのない所だったので迷っちゃったんですよ。タクシーも全然来そうにもないので、また気を取り直して別の脇道をテクテク歩いていくと、やっと環6か何か広い道に出たのね。ああ、よかったと思ってフッと目をやると、少し離れた所にハザードランプをチカチカさせて1台のタクシーが停車してるわけ。乗せてくれるか聞いてみようとその車に近寄って行ったら運転手さんが「どうぞ」と声をかけてくれたのね。で、早速乗り込むと「六本木ですね」って言うんだって。こっちが行き先を言わない前に運転手さんがピタリと言い当てたものだから、おカミさんもビックリして、「私がどうして六本木へ行くことを知っているんですか?」って尋ねたら、「だって、あなたを待ってたんですもん。さっき若い女の人が来て、もうすぐこういう着物を着たおばさんがやって来るから六本木まで乗せて行って下さい。それまでちょっと待っていて下さい、って言われたんですよ。そしたら言われたとおりの着物を着たあなたが来たから、お宅だな、と思って声を掛けた訳です」って答えたと言うのね。それでおカミさんもきっと彼女だと思って、運転手さんにその女の人の特徴を聞いてみると、案の定、亡くなったスチュワーデスさんに間違いなかったそうなんです。



「こんな話ぱかりすると必ず来るよ」
 
 この店は本当にそんなことがよくありましてね、僕の叔父さんが出たのもそこなんですよ。あれはもう5,6年前になるんですけど、雑居ビルの中にある店舗ですから、トイレが外にあるという造りで、男用は用を足しているとちょうど目の前にいつも開けっ放しにしている小窓があって、隣のビルとの距離が1.5メートル位で、真っ暗って感じなんですよね。
その日は、大学の後輩と飲んでいたんですけど、その男には霊感があって実によく当たるんですよ。仮にO君としときますけど、彼がトイレから戻って来て、僕に言うんですよ。「今、岸さんの叔父さんに会ったよ。トイレの窓の外に立って“邦浩をよろしく”って言ってました」って。僕、本名が岸邦浩っていうんですけど、その時はまさかと思いましたから「嘘つけ!」って言ってたんですよ。だけど、ちょうど母方の叔父さんが入院していたんで気になりましてね、すぐにその場から実家に電話をしたんです。そしたら「持ち直してるから安心しなさい。大丈夫だ」っておふくろから言われたんで、「やっぱりお前の霊感も当てにならないな」なんて、けなしたんですよね。
 
 それから1か月後、大阪で仕事があったんで、その日は西宮の実家に帰ったんですけど、翌日警察から電話が掛かって来ましてね。受話器を持った親父の顔が段々深刻になってきて「はい、はい」って、頷いてるわけ。実は、1人暮らしをしていた父方の叔父が亡くなったんですけど、発見が遅れて半ミイラ化した状態で見つかったという連絡だったんですよ。鑑識で調べた結果、死後1か月だというんですね。その日が9月7日ですから1か月前は……と思って、あの六本木の店で飲んだ日付を調べてみると、なんと8月7日だったんですよ。
 O君が会った叔父というのは父方の方だったんです。その叔父さんは、ちょっと事情があって自分の息子にあまり手をかけてやれなかった分、近所に住んでいた僕をすっごくかわいがってくれてたんですね。だから、きっと死ぬ間際に自分の思いみたいなものを僕に伝えに出て来てくれたと思うんです。
 
 とにかく0君の言うことはよく当たってて、彼がまだ大学生だった頃、男女6,7人が集まって怖い話大会みたいなことをしたことがあるんですよ。あれはもう夜中の4時頃だったと思いますけど、O君が「こんな話ばかりをしてると必ず来てるよ」って言うもので「どこにいるんだ」ってみんなで聞いたわけ。すると、0君が「今、そのカーテンの向こうに見える」って言うんですね。と、もう1人の女の子も「私もさっき茶色い人が見えた」って、霊感の強い2人が頷き合っているんですよ。
 その彼女もすごく霊感があって、例えば小さい頃、古い造りの実家の玄関の土間で手鞠をついて遊んでいたら、手がすぺって鞠が縁の下に入ったらしいんです。取らなきゃと思って縁の下を覗いた途端、ポンと鞠が返って来た。で、不思議に思って、そぉーっと覗き込んで見るとお婆さんが機織りをしながらにっこり笑ったんだって。でも、子供心にもこの事は誰にも言っちゃいけないような気がして、ずーっと黙ってたって言うのね。
 でも、こんな霊感の強い2人がこの部屋にいるなんていうから、もう怖くって怖くって。ただ、O君が「でも、彼らが帰るときには何か音を鳴らして行くから分かるよ」って言うわけ。だけど、そう言った途端、僕等から数メートル離れた所にある電話が、それも死にそうな音で「チチッ、チリチリッ」と2回鳴ったの。みんなギャアーッって小さい1人用のコタツに入ろうとして大パニック。
 

僕自身は、音関係ではたまに不思議な経験をするんですけど、実際に目で見るということはほとんどないんです。ただ一昨年、大阪の『ZOO&ZOO』という行きつけのバーではっきり見たんですよ。

そこはボックス席が2つあって、その間の仕切りが魚を捕るときの網みたいになってるから隣の人の顔とかはよく見えるんですね。で、その時はさらに店の奥にある7,8人座れる小部屋でマスターが伝票付けをしていたわけ。誰か店に入ってくると、ドアに付いているかねがカラン、コロンと鳴るからすぐに分かるんですけど、僕等3人以外にまだ客はいなかったんですね。
 
たまたま映画会社の体のでかい人があくびをしながら隣の方を向いた時と、僕がフッと隣を見たのが一緒だったんですけど、同時に「見たぁ」「見たよ」「うわぁーっ!」と言って大慌てで、マスターの所へ飛んで行ったのね。「マスター、白い人がスッと今、通って行ったんですよ」って僕らがまくし立てると、それを聞いたマスターは落ち着いたもんで「あっ、そっちに行きましたか」ってまるでゴキブリみたいに軽く言うんですよ。

 訳を聞いてみると、以前は店のカウンターの、今は冷蔵庫を置いてある辺りに料理人の白い服を着た少し髪の毛の長い、顔色の悪い若者が立っていたらしいんです。だから、女優のホーン・ユキさんとか霊感の強い人なんかは、カウンターに座ると必ずブツブツそっちの方へ向かって何か言うのね。で、マスターが「何言ってるんですか?」と尋ねたら、「私、ちょっとこの人と話してるから黙ってて」と言って、後で、こういう年頃のこんな人だった、というのがさっき言った人相と全員みんな同じなんですよ。それで、マスターも気持ち悪くなっちゃって彼が立っているという場所に新しい冷蔵庫を置いたんですね。それ以来、自分の居場所がなくなって店の中をウロウロさ迷っているらしいんです。どうもその幽霊は前の持ち主の時に働いていた料理人らしくて、彼は出勤する途中に交通事故で死んじゃったのね。でも、自分では死んだことを認識してなくて、経営者が替わっても今だにその店に出勤してるんですよね。




「目が覚めたら窓から身を乗り出して‥」

 あと、もし自分だったらと思うとぞっとするお話しを1つ。僕の知人で不動産業を営んでいる人が、ハワイのワイキキの一番海辺に近い道の端にある『ミスター・ドーナツ』の裏手にコンドミニアムを持っているんですよ。僕の知り合いの女性もそのコンドミニアムに泊まらせてもらったことがあるんですけど、何だか知らないけど夜、変な夢を何回も見たんですって。どんな夢かというと、そこの部屋は20何階なんですけど、自分がその窓から飛び降りようとしていて、うわぁー飛び降りたくないっ!と思って目が覚めると寝床の上だったから、あっ、夢なんだ、って安心してまた眠ったんだけど、一晩の内に同じ夢を何回も見るというのね。で、5回目位かな、またうなされてぱっと目を開けたら、実際に自分が窓から体を乗り出して飛び降りようとしていたんですって。もう「うわぁーあーっ!」と絶叫して窓から中へ降りたらしいんですけど、もし空中に舞った瞬間に目覚めたりしたら取り返しがつかないでしょうね。
 
そういった住まいに関して言えば、幽霊のよく出る家とか部屋というのはあってね、これも僕の友人の話なんですけど、古い家に何人かで泊まった時に、夜中寝てて薄暗い部屋を見回すと、天井から紐が下がってて、そこにもぎれた腕がぶら下がってて、そこからポタッポタッと血が自分の顔の上に落ちてくるんですって。ウヒェーと思って周りの人間を起こしたら「何だ、何だ」と言って、パッと電気を点けたのね。で、事情を話したんだけど、みんな「あの梁から下がっている木の棒みたいなものがブラブラしてるだけじゃないか、別に血なんて滴っちゃいないよ、気のせいさ」と取り合ってくれずに、「夢でも見たんだろう」って笑われる始末。
 彼も全員にそう言われたから「そうかなぁ」と半信半疑のまま眠ったんだけども、次の日起きて「夕べは怖かったよなぁ」と言ってみんなで天井を見上げたら梁さえない真っ平らな天井だったという。もちろん棒もぶら下がってるはずもなく、一同腰が抜けるほど驚いたらしいけどね。




「オレンジ色の光の玉の中に‥」

 それから、旅館というのも幽霊の出る所がありますよね。これはうちの事務所の社長が、昔デパートに勤めていた時の先輩と後輩が実際に体験した話を聞いたものなんだけど、その2人が四国に旅行をしたらしいんですよ。
 ある町で泊まろうとしたら、ちょうどお盆の時期でどこの旅館も満員。その時、困った時は助役に聞け、という言葉を思い出したらしく、駅員さんに「雨露がしのげれば、男2人ですからどこでもいいんです」と泣きついて探してもらったところ、1軒だけ「どうぞ泊まりに来て下さい。」って言う所があったんで、早速駆けつけた訳。ところが、案内してくれた部屋が8畳の日本間が2間続きの所で、真ん中にスダレが架かってて、それぞれの部屋に床の間があるという造りだったのね。旅館の人に「ここでよろしいでしょうか」と言われた2人は、「こんないい部屋、文句ありません」って喜んだのね。


 さんざんバカ話をした後で、さあ寝ようと横になったんです。せっかく2部屋もあるんだからということで、それぞれの部屋に1組ずつ布団を敷いてもらって寝たんだけども、何だか2人とも寝苦しくてしようがないのね。そのうち先輩から、「おい、そっちの床の間の電気消してくれないか。真っ暗にしないと俺、眠れないんだよ」と声が掛かったんだけど、どこを探してもスイッチがないというのね。それじゃ仕方ないから電球をはずそうと、先輩から「1人じゃ届かないから俺が踏み台になるよ。お前背中に乗れよ」と言われて後輩の方が上に乗って電球をはずして真っ暗になった途端、「あっ!」と叫んだんですね。で、背中に乗ったまま「先輩、あっちのスダレの向こうに光が見えますよ、光ってます」って言うのね。でも、先輩の方は「電球をずーっと見てたから、その明かりが目に残ってるんだろ」って言いながら向こうの方に目をやると、本当にオレンジ色の光が後輩の言ったとおりに見えて、しかもそれが段々2人に近づいて来て、すっとスダレを通り抜けて突進して来るんですよね。どんどん近付いて来るそのオレンジ色の光の球をよーく見たら、すさまじい形相の女がにやっと笑いながら向かって来るわけ。「うっわぁーっ!」と言って、どうやって部屋を出たかも分からない位恐怖に怯えて、とにかく明かりのある所へと廊下に出て、帳場に転がり込んでいったんですわ。そしたら旅館のおカミさんが大して驚きもせず「やっぱり出ましたか」って言ったというのね。
 
 で、2人とも大いに憤慨して「何でお化けの出るような部屋に入れたんだ」って抗議したら、「だって、どこでもいいって言ったじゃないですか。それにあなた達みたいに体格のいい男の人なら大丈夫だろうと思ってご案内したんです。申し訳ありませんでした」って言われたらしいけど、やっぱりお化けが出るような事件がその部屋では過去にあったらしいんだな。

 やっぱり霊というのは、人の集まる所に出やすいんですよね。どうにか自分の存在に気付いてほしいと思って。特にこれからの季節は、車座になって怖い話大会なんて頻繁にするようになると、みんなの中心に霊というのは出現するのね。そういう時は、心の中で「迷惑だから来ないでくれ」って念じていれば、大丈夫ですけどね。